ストレスが身体に及ぼす影響

 



ストレスとは外部からの刺激に対する身体の反応です。
身体は環境の変化にかかわらず、自動的に一定に保たれるようにするホメオスタシス(恒常性)というシステムがあります。
このホメオスタシスを乱す可能性がある状態をストレスと言い、その原因をストレッサーと定義されています。
ストレスを感じると、脳がホルモンを分泌し、血圧や心拍数の上昇や肺の拡張・収縮、筋肉の緊張などが生じます。


私たちの心や身体に影響を及ぼすストレッサーには
物理的ストレッサー 
     → 暑さや寒さ、騒音・混雑など
化学的ストレッサー 
     → 公害物質、薬物、酸素欠乏・過剰、一酸化炭素など
心理・社会的ストレッサー 
     → 人間関係や仕事上の問題など
があります。

普段、私たちが「ストレス」と言っているものの多くは、この「心理・社会的ストレッサー」のことを指しています。
職場では、仕事の量や質、対人関係をはじめ、さまざまな要因がストレッサーとなり得ることが分かっています。


ストレスを受けると、身体では4つのストレス反応が起こります。

・自律神経系のストレス反応
・HPA系をはじめとした内分泌系(ホルモン)のストレス反応
・自律神経系と内分泌系による免疫系のストレス反応
・不安などの情動変化に伴うストレス反応

自律神経系・内分泌系・免疫系は密接に関係しあっていて、お互いに影響しあっています。



自律神経系のストレス反応


ストレスによって交感神経が刺激され、副腎髄質からアドレナリンの分泌が促されます。それに伴い、様々な症状が認められます。

ストレスがかかると、自律神経系では交感神経が刺激されます。
交感神経は「戦闘モード」に切り替えます。
心機能が高まり頻脈や動悸、頻呼吸となり、筋肉は強張ります。
その一方で、消化は抑制され、胃腸の働きや唾液分泌が悪くなります。

交感神経系は神経ニューロンとして全身に張り巡らされたネットワークです。
脳から脊髄を下って、心臓や肺・胃腸・関節や皮膚など様々な器官に行き渡っていきます。
さらには副腎髄質に作用し、アドレナリンというホルモンの分泌を促します。
血中のアドレナリンが全身の器官に作用し、自律神経系と内分泌系の両面から交感神経優位の状態にしていくのです。


内分泌系のストレス反応

 

ストレスに反応して抗ストレスホルモンと呼ばれるコルチゾールが分泌され、身体は恒常性を保とうとします。

内分泌系では、視床下部ー下垂体ー副腎皮質系(HPA系)の働きが重要です。
ストレスを受けると下垂体からACTH(副腎皮質刺激ホルモン)が分泌されてACTHは副腎皮質からコルチゾールが分泌されます。
コルチゾールは、ストレスなどの負荷に対して「身体が負けずに元気になれ!」と命令するホルモンなので、抗ストレスホルモンとも呼ばれます。

このHPAの調節には、海馬が大きく関係していると考えられています。
海馬は学習や記憶に重要な働きをしており、認知症の患者さんには萎縮が認められる部分です。
この海馬は、ネガティブフィードバック機構という、適切な量のコルチゾールが分泌されるように調整する働きをします。

強い心理的ストレスが加わると、海馬神経細胞の脱落や萎縮が起こります。
また、海馬は慢性的にコルチゾールが高い状態が続くことに弱く、海馬神経の萎縮や神経新生を抑制することが報告されている。
海馬機能が低下すると、コルチゾールの暴走を止められなくなります。
こうしてHPA系が活性化してしまいます。


免疫系のストレス反応

 

自律神経系での交感神経の活性化と、内分泌系でのコルチゾールの分泌によって、免疫系は抑制されます。

免疫系は自律神経系と内分泌系に密接に関係しています。
免疫系の組織である胸腺や骨髄、脾臓、リンパ節は自律神経系の調節を受けています。
ストレスがかかり交感神経が活性化すると、ノルアドレナリンやニューロペプチドYなどが免疫細胞に作用します。
さらには内分泌系から、ストレスによってコルチゾールが分泌されます。

ストレスがかかると、免疫系は自律神経系と内分泌系の影響を受けて、一時的に抑制されます。
病原体が細胞に感染するのを防ぐ液性免疫(抗体)は強くなることもありますが、感染してしまった細胞をやっつける細胞性免疫(キラー細胞)は、確実に弱まります。

免疫系では、免疫物質として様々なサイトカインが分泌されます。
このサイトカインは脳の視床下部に作用して、発熱の抑制に働きます。
ストレスにより微熱が続くことがありますが、この免疫系が抑制され、サイトカインによる発熱抑制がうまく機能しなくなることが原因であると言われています。


情緒変化によるストレス反応

 

気分や寛容が変化することでの認知の変化と、食欲を制御している物質の変化によって、適切な摂食行動がとれなくなってしまいます。
ストレス反応として、気分や感情といった情動にも影響があります。
これと密接に関係するのが、「食べること」

ストレスには、暑い寒いといった物質的ストレスや感染・アレルギーといった生物的ストレスなど身体的なストレスだけではありません。
日常生活の様々なことで、不安や怒り、緊張や悲しみなどを伴う精神的ストレスがあります。

これらの精神的ストレスは、大脳辺縁系にある扁桃体や海馬が関係してきます。
とくに、痛みや恐怖のある精神的ストレスでは、扁桃体が大きく関係していると言われています。
気分や感情を変化させて、それによって行動を変えます。
その一つが摂食行動です。

ストレスがかかると食欲が低下したり、反対に食欲が亢進してしまうことは経験的によく知られています。
これは精神的ストレスによる情動的な影響も受けますが、ニューロペプチドによって行われています。
その中のオレキシンやグレリンは摂食中枢を刺激し、食欲を亢進させます。
それと同時に、HPA系も活性化することが分かっています。

精神的ストレスによって
・気分や感情が変化し認知の変化
・食欲を制御している物質の変化
これらが複雑に絡み合って、適切な摂食行動がとれなくなります。


ストレス反応の3つの段階

 

ストレス反応は警告反応期・抵抗期・疲憊期の3段会ですすんでいきます。

警告反応期

突然有害なストレッサーにさらされて生じる反応で、この時期はさらにショック相と反ショック相に分けられます。
ショック相は、ストレッサーに突然さらされた身体がショック状態を起こしている時期です。
血圧低下や血糖値の低下、筋緊張の抑制などの現象が見られ、大体数時間〜1日程度持続します。
続いて、反ショック相は、突然のショックから立ち直り、ストレスに対する適応反応が本格化し始める時期です。
抗ストレスホルモンが分泌され血圧や血糖値の上昇などの、ショック相とは真逆の反応が起こります。
ストレスをうけると、そのショックから一時的に身体の機能が低下しますが、抗ストレスホルモンが分泌され、身体の機能を活性化させることで身を守ろうとします。

抵抗期

なおもストレスが続くと、第二段階の抵抗期へ入ります。
有害なストレッサーに対する抵抗力が増し、ストレッサーと抵抗力とがバランスを保つことによって一旦は安定を迎える時期にあたります。
この時期にストレッサーが弱まるか取り除くことができれば、ストレス状態から回復して健康を取り戻すことができます。
しかしながら、抵抗期の間にストレッサーに抵抗するためのエネルギーを消費しすぎてしまうと、やがて限界を迎えます。

疲憊期

長期にわたって継続するストレスに身体が対抗しきれなくなり、段階的に抵抗力(ストレス耐性)が衰えてくる、いわばエネルギー切れの状態を示します。
この時期は、「ショック相」と同様の身体機能の低下や不適応が見られます。
さらに、有害なストレッサーが弱まらず、疲憊状態が長期にわたって続けば、最悪の場合死に至ることもあります。

このような状態を汎適応症候群と言います。


良いストレス(快ストレス)と
         悪いストレス(不快ストレス)

 

身体はストレスに自然に反応し、難しい場面に対処します。
その反応はまず脳から始まります。
適度なストレスは、その場に応じた行動や反応を引き出します。
また、試験や仕事、スポーツの試合などで目標を達成し、パフォーマンスを向上させることもできます。

一方、慢性的で過剰なストレスは害になります。
身体が絶え間なく『ストレス警報』を出し続けると、心や身体に不調が現れ、言動や人への接し方に影響が出ることもあります。
また、アルコールや喫煙過多などの不健康な習慣、うつ病や燃え尽き、自殺願望と行った問題を抱えることさえあります。

ストレスが及ぼす影響は人によって異なります。
ストレスは様々な病気の原因になり、身体のほぼ全ての器官に影響を与えます。


ストレスが身体に及ぼす影響

 

神経系 

アドレナリンやコルチゾールといったホルモンを分泌し、血圧・心拍数の増加。血糖値の上昇を促します。それにより、危険に対して瞬時に反応できます。

過剰なストレスにより現れる症状:
●身体の痛み
●筋肉の痙攣
●頭痛
・片頭痛…強い痛みが急激に現れる
・緊張型頭痛…重い痛みがだらだらと続く
   → 首から肩にかけての筋緊張が原因

呼吸器系

多量の酸素を取り入れるために呼吸が浅くなり早くなります。
筋肉に影響を及ぼすため、肺の拡張・収縮が十分に行えなくなります。

過剰なストレスにより現れる症状:
●過呼吸
●呼吸困難
●それらが引き金になって起こるパニック発作

循環器系

全身に血液を送るために心臓の鼓動が速まります。
筋肉などの重要な器官に血液を集中させるため、血管が収縮したり拡張したりします。
血管収縮により血圧上昇をきたします。

過剰なストレスにより現れる症状:
●高血圧
●心臓発作
●動悸
●脳血管障害

内分泌系

分泌腺がアドレナリンやコルチゾールなどのホルモンを放出し、ストレスに対する反応を促します。
血糖値を上げてエネルギーを供給します。

過剰なストレスにより現れる症状:
●糖尿病
●免疫能低下に伴う疾病罹患
●気分の落ち込み
●体重の増加
●喘息やアトピー性皮膚炎といったアレルギー疾患の症状増悪

消化器系

食物を消化する機能が低下します。
胃・腸の働きが減弱する。

過剰なストレスにより現れる症状:
●嘔気
●嘔吐
●食欲不振
●腹痛
●胃痛
●下痢
●便秘

生殖器系

性欲が減退し、性機能が低下します。

過剰なストレスにより現れる症状:
●ED(勃起障害)
●生理不順
●不妊



私たちは、生きている限りストレスを避けて通れません。
だからこそ、ストレスと上手く向き合っていくための対処方法を考えることが重要です。
そのためには、自分が「普段どのくらいストレスを感じているか」「ストレスが溜まりすぎたらどんなサインが出るのか」を知っておくことが不可欠です。

ストレスによる身体のサインを見逃さないようにし、サインに気づいたときには早めのストレスケアを心掛け、適切にストレスをマネジメントしましょう。